動きが変われば、しなくて済むようになる
【行動障害を改善して、生活を豊かにする】
2.「できた」体験の邪魔になる(雑音となる)ような誤作動の動きをしなくて済むようにする
「できた」体験を提供する、もうひと頑張りを支えるためには、それなりに落ち着いた状態を必要とする。
・刺激に振り回されている状態
・行動のクセに振り回されている状態(自傷や他害など)
・行動のパターン、つまり、こだわりに振り回されている状態
このような状態では、もうひと頑張りがきかないし、体験すること自体をつかみにくい。
何をさせても興味を示さないのではなく、興味をそこに向けることができない状態なのである。
「できた」体験をできなくさせている、本人の充実した生活を阻害している、自傷や他害や大声、こだわりは、減らし、消し、変化させることが必要である。
「できた」体験の雑音となるような誤作動の動きを止めてあげ、適切に動きを作る応援をして、興味を注げる状態にもっていってあげること、そこまでして初めて、興味をもったか、もたなかったかを判断できる。
本人が「したくない」と考えていて、その動きを自分でコントロールできるのであれば、しなくて済む。
問題なのは、「したくない」と考えているのに、自分の動きをコントロールできない場合である。
「したい」と思っている場合、僕は「そんなことをしていたら、充実した人生にならないから止めるべきだ」と言います。
自閉スペクトラム症の人の自傷や他害、こだわってしまう動き、多動で動いてしまう動きを変えるには、まず第一に身体へのアプローチが必要である。
例えば、ジッと立っていられない身体をどうにかしないと、走り出すのを止められない。
そもそも失敗しやすい動きの質を持っている状態を変えることである。
自由度のない(パターン化しやすい)身体の動きを、自由度のある動きができる身体に変えることである。
違う動きを教えたくても、動きがパターン化していると変えられない。
パターン化している場合、力んでいることが多い。
力んだままでゆっくり慎重に動くことや力んだままで身体を操ることはかなり難しい。
原始反射が残っている場合は、使い切って動ける身体にする。
身体感覚を育てること。
身体が変われば、そもそも自傷をやたらめったらしなくなるから、自傷を止めるということ自体しなくて済むようになる。
原始反射ではなくて、刺激に反射的に反応してしまう、ある動き・ある力が入るといつも自傷している動きをしてしまう・掴みかかってしまう、という場合もある。刺激に反射しなく身体にしていくこと、力を抜くこと、反応しないで動けるようになること。
上手に身体を使えるようになるように、統合していくための動き、上下左右の空間認知を高める動き、中心に力をこめる動きなど様々な動きを作れるようにしていく。
動きの質を変えていくには、
・触れ方
・動きの導き方
・力を抜き方
・雑音になっている行動パターンを消し方、新しい行動パターンを作り、それを強化していくこと
こういうところに工夫が必要である。
「動きを制限することが悪」と言うなら何も出来ない。
身体にアプローチするのであれば、例えば、「そこに寝てください」ということは必ずある。
本人は好き好んで寝転ぶこともあるだろうけれど、そうでない場合に上記のようなポイントを工夫して上手にアプローチできるかどうかが重要なポイントであり、それを体現できるのが力量ある。
「したくてしている」と捉えるから、「したいことを邪魔している」になる。
そう捉えるのが普通である。
「したくないのに動いてしまう」「だから、止めてあげることが必要だ」という捉え方もできる。
こちらが関わっていったとき、自閉スペクトラム症の人が、本人は動こうとしているのに上手く動けていないということを実感できる瞬間がある。この実感は関わらないと得られないものである。
こういう体験をしないまま、「したくないのに動いてしまうんだな」と捉えるのは難しいのかも知れない。
だが、そう考えること自体をしない、つまり思考停止してしまっていると、別のアプローチを試しもしない、工夫もしないということになる。
体験していなくても、治してあげたくて、試す人もいる。
「試したが、(やっぱり)悪くなった」と止めてしまう人もいる。
悪くなった要因を止めたことだけに絞ってしまう。そうでなくて、止め方が悪かった、触り方が悪かった、タイミングが悪かった、ということもあるのだから、要因を一つに絞らないように考えたい。
もっと違う止め方が出来るのではないか、タイミングを変えてみよう、と追求して、結果を出す人もいる。
上手くいかない場合に考えたいポイントは「予防」である。
止める、とか、行動パターンを変えるというのを、「してしまってから『禁止』している」と受け止められていると、無駄だと思われるのかも知れない。
もちろん、ダメなものはダメと伝える。
しかし、してしまってからの対応は「後手」として、こちらの失敗と考えている。
あくまで「先手」であり、予防である。
タイミングは結果を左右する重要なポイントである。
してしまう前に介入して、
「上手くいったな」
「あぁ、この人と一緒に行動して(作業をして)よかった」
「いつもの失敗をしなくて済んだ」
と思ってもらうことが必要である。
工夫にばかり目がいくと、止め方を追求することが目的化してしまう。
あくまで目的は、豊かで健康的な生活の実現である。
人と関わり、能力を発揮して、働く。
例えば、トイレ通いを止める目的は、トイレの回数が減ると、本人は旅行を楽しめるから。そうすると、生活が豊かになるから。