自閉症の人が与えてくれた宿題 1.出会い

自閉症の人への支援方法がわからない

【初めて自閉症の人に出会って感じた違和感】

 2003年頃に、社会福祉士の受験資格を得るため障害者支援施設(知的障害者施設)で実習した。

 2009年頃に、その実習を振り返って書いた文章が以下である。

 

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 一つ目の実習先の施設で、自閉症のわけわからなさに出会った。

 爪を歯にカチカチと当てながら、ずっと廊下を行ったり来たりしている人。

 部屋の隅っこで寝転んで、独りきりで指を回し続けている人。

 コーヒーを求め、夜も眠れず、窓のカギを開けようとし、天窓にまでのぼって外に出ようとしている人。その人は、あまり作業が出来ないらしく、毎日の日課は散歩であり、散歩途中にコーヒーを飲んでいた。職員は、夜中に眠れず開けられない窓を開けようとしている彼を苦笑しながら眺めていた。

 僕は、違和感を感じていたが、それが何なのかわからなかった。

 

 自閉症が知りたいと思い、自閉症の人が多くいるという施設を実習先に選んだ。

 そこには、ずっと廊下を行ったり来たりしている人はいなかったし、部屋に独りきりで指を回し続けている人はいなかった。

 そこにいる自閉症の人たちは、普通の人としての振る舞いを求められていた。職員も本気で彼らと向き合っているようだったし、苦笑しながら眺めている職員はいなかった。

 僕は、あまり違和感を感じなかった。が、それが何故かはわからなかった。

 同じ自閉症なのに、彼らの様子がどうしてこんなに違うのか、わからなかった。

 職員の対応の違いも、どうしてここまで違ってくるのか、わからなかった。

 

*****

 

 今考えると言葉足らずな部分もあるが、何も知らない当時の印象だから、こういうことになっている。

 何もわかっていない時期なので「わからなかった」ばかりが目立つ。

 

 コーヒーにこだわり夜も眠れなくなった人、結局どうなったか。

 その夜の翌日か翌々日、職員会議が開かれた。

 「入院させて投薬調整をしてもらう」ということになった。

 しばらく戻ってこなかったと思う。

 その後どうなったのか、実習も終わり、どうなったのかわからない。

 

 一つ目の施設で「感じた違和感」を言葉にしておく。

 最初に引用した文章、「わからなかった」と書いているが、気を遣っているように思う。思ったこと素直に書きたい。

 職員さんの苦笑について。

 僕は「またそんなバカなことをして」「出られるわけないよ」というバカにしたような感じを受け取った。その職員さんがそんな風な発言をしていたように思うけれど、それは明確に覚えていない。

 僕が勝手にそう受け取ったことなので、実際にどういう思いをもっておられたのかは聞いていないのでわからない。

 ただ僕はそう感じた。

 そして、

 『それ(苦笑)はないだろう』

 と思った。

 そんな様子なのにも関わらず、次の日も散歩でコーヒーを飲んでいた。

 結局、入院。

 『他に(入院以外に)何か方法はないのか?』

 『何のための支援なのか?』

 『でも、自分では(支援方法が)わからない(どうしたらいいのかわからない…)』

 「自閉症の人の、このわけのわからなさをわかりたい」と考えた。

 「なんとかならないのか、支援方法を知りたい」と考えた。

 

 もう一つ考えたことは、当時の僕は就職先の施設を探していたので、

 「自分はあの施設(一つ目の施設)では働けない」

 「働くのであれば、こっちの施設(二つの施設)」

 ということだった。 僕は就職先を選ぶことができる。

 

 しかし、利用者は支援者を選べないことの方が多い。

 「自閉症の人たちへの支援方法を知る」

 というテーマと

 「どういう生活(日中活動)をするのか」

 という二つのテーマが宿題になった。

 

 夜中に眠れなくて苦しんだあの人が僕に与えたくれた宿題だった。

 あの人のおかげで、今の僕がある。

 この宿題の答えを考え続けなければならない。


かくたつ播磨

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