認知の凸凹を、運動(学習態度・対人関係)と学習(数・量・意味など)で改善していく
【やりとりの中で彼ら自身が評価されていき、彼ら自身と連帯を感ずることが必要】
『十亀史郎講演集Ⅰ「人」』より
p.197~
年長になりまして子ども達をみていく時に私達は、幾つかの問題にぶつかります。
この問題点とはどういうことだろうか。私が年長の自閉症児がどんな特徴を持っているかということを言う前に、実際に皆さん方が関心をもたれるのは、年長になって何を問題点としてわれわれは対応すべきかということです。現実に起こされた問題にはこういうことがありますというのではなくて、彼らを指導していく時ににわれわれが把握すべき問題点というのは、どういう整理をすべきかということですけれども、それは大変社会性が乏しいということ、一面性しかないという問題があります。それと社会性の問題点と一緒に深いところにあるのだということで、やはり学習困難の問題であろうと思います。
この学習困難と言うことにつきましては、私共、自閉症児の認知構造にどうアプローチしていくかということを考えた時に、結局問題になるのは学習能力が大変少ないということなんです。私共、彼らの行動上の問題点を解決するのに二、三のキー・ポイントとなるようなところは十分つかむことができるわけです。ここを改善したら…というような、煎じ詰めたキー・ポイントを把握することはできるわけです。
しかし、そのキー・ポイントとなるような障害はどうやって克服するかということになると、それは学習を通してしかありません。
(略)
これは、様態としては先程申したような特殊発達障害、特殊な領域における学習困難というようなこともありますけれども、やはり一般的な学習条件の欠損ということが非常に重要ではないかと思います。
それは皆さんも、しょっちゅうお目にかかってるいると思います。一つのことに固執する、あることを反復する、すなわち進歩発展がないという、まさにそういう形においての学習の困難さがありますし、次に集中力の無さがあります。さらに、集中力は一時的なものでは駄目なので、やっぱり持続しなければならないという問題があります。その次に、自発的に何かやるという、気構え、こういうところが非常に問題になってきます。
もう一度言いますと固執、反復するところが無くなって、集中力があって、どんなことでも持続してくれて、何かこう自発的にやるという気が出てくれたらこれはもう簡単なわけです。(略)
第三の問題といいますのは、年長児においては不機嫌ということ、それから往々にして破壊的な衝動というものが出てくるのであります。
これにつきまして実をいいますと、自閉症に特徴的かというと他のでも相当ありまして、とにかく奇声をあげたり跳び上がったり、また何か自分の手を噛んだりしますと「アッ、自閉症」と言われることがありますけれど実はそうではないんですね。
(略)
こうした子どもたちも大人になれば、やっぱり大人の生活の中に適応していかねばならないわけですし、また彼らなりに仕事を持つ必要もあるわけです。
(略)
そして彼らの生活というのは、自分一人で放っておかれれば一人放っておかれたままになっておりますけれども、しかし実際は人とのつき合いは悪くは思っていないですね。何ていうか、腹の中では大変それを望んでいるようなところがあります。
そして、自我意識というものも十分芽生えてきまして、自分が失敗したとか、うまくやったとか、叱られたとか、あるいは自分が一番早くできたとか、そういうことが意外に彼ら自身の心の中ではよく感じとられているわけです。
(略)
そこで彼らとわれわれとの間のやりとり、そしてそのやりとりの中で彼ら自身が評価されていき、彼ら自身と連帯を感ずるということが必要になってきます。